従来「産後の肥立ちが悪い」とか「育児ノイローゼ」などといわれてきた症例の中に、出産後の甲状腺機能異常が原因と考えられる症例が少なからず含まれていると考えられています。出産後甲状腺機能異常症は、特に女性に頻度の高い(女性の10~20人に1人程度ともいわれる)潜在性自己免疫性甲状腺炎が、出産後増悪することにより発症し、その発症頻度は該当する妊婦の5%程度ともいわれています。
その臨床症状については、甲状腺機能亢進症でも、甲状腺機能低下症でも、出産後以外に発症する場合と特徴的な差異はありません。しかし出産後は育児のことなども重なり、その症状が甲状腺機能異常によるものか、あるいは単なる不定愁訴なのか、診断については血液検査などを行わないとわからないことも多々あります。
正常出産後婦人に比して、出産後甲状腺機能亢進症を呈した場合には、心悸亢進、疲労感などを感じる場合が有意に多く、出産後甲状腺機能低下症を呈した場合には、肩こり、疲労感、食欲低下、便秘などの症状が出る場合が多いといわれています。
出産後には、疲労や気分のむら、食欲の低下、不眠などの、「出産後うつ状態、あるいはうつ病」として最近注目されている症状がおこることが少なからずありますが、このような場合にも、出産後の甲状腺ホルモンの変動、特に出産後甲状腺機能低下症の可能性を考えて、血液検査などをしておく必要があります。