慢性甲状腺炎であれば、不妊の原因になる、児の知能の発達に障害がおこる、治療薬が胎児や母乳に影響する、などといわれることがありますが、これらは全くの間違いです。妊娠中の母体の甲状腺機能が正常化していれば、一般の妊娠経過と変わることは何もありません。ただし妊娠可能な女性のTSH(甲状腺刺激ホルモン)の正常範囲は、従来の正常範囲より、厳密に管理することが重要といわれています。国際ガイドラインでは、TSHが2.5μIU/mL以上にならないように調整しておくことが推奨されています。というのは、妊娠初期のTSHの値と胎児損失率との間には有意の関係があることが認められているからです。更に甲状腺機能低下症が高度の場合でも、母体の甲状腺機能が正常になる量の甲状腺ホルモン剤の内服は、胎児に悪影響を与えません。 赤ちゃんに知能障害や奇形をおこすなどの副作用は全くありません。逆に甲状腺ホルモンが不足していると、一般の妊婦さんより流産の可能性が高くなります。そして妊娠週数が進むと、甲状腺ホルモン剤の補充必要量が増えることがあるので、定期的な検査が必要です。自己判断で薬を加減することなく、必ず医師の指導に従ってください。
出産した後は、少なくとも半年間くらいは、何らかの甲状腺機能異常がしばしばみられることがあり、甲状腺ホルモン値の測定が勧められます。 甲状腺機能異常は色々なタイプがあり、甲状腺ホルモンが増える場合も、減る場合もあります。一時的な変動だけで自然に治ってしまうことが多いのですが、永続性の甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症を起こす場合もあります。一時的な変化か永続的な変化かの鑑別には一回の検査では見分けが難しい場合があり、注意深く経過を見ていく必要があります。なお甲状腺ホルモン剤を内服し続けながら赤ちゃんに授乳することは、全く問題ありません。稀に先天的に甲状腺機能低下症にかかっている赤ちゃんでは、治療しないでいると知能に影響することがあります。しかし、日本では出産で入院している間に赤ちゃんの甲状腺機能検査を行うことになっている為、特に心配はありません。